近年、全国各地で相次ぐ台風や洪水の被害。保有物件が被災したとき、損害保険はどこまでカバーしてくれるのでしょうか?保険選びや見直しのポイントとは?
台風、集中豪雨、竜巻、地震、噴火など、自然災害により人々の生活に深刻な被害をもたらすものは「激甚災害」と呼ばれ、近年わが国でも発生頻度が急激に増加しています。これらの激甚災害によって建物が被災した場合、損失をカバーできるのが損害保険です。しかし正しく契約されていなければ十分な補償を得られません。
では自然災害のリスクに対して、損害保険をどのように活用すればよいのでしょうか。
火災保険はカスタマイズを!
ひとくちに損害保険といっても、災害の種類や受けた損害の種類によって補償項目が異なります。
一般的によく耳にする「火災保険」とは、基本補償項目(=主契約)と追加補償項目(=特約)から成る総合補償型の保険商品を指します。これは対象物件の特徴やオーナーの希望に合わせて主契約から特定の補償を外したり、必要な特約を付加したりして全体の補償項目を決定する、いわば「セミオーダー」と言えます。
火災保険商品は、ニーズに合わせて補償をカスタマイズする必要があります。
自然災害から物件を守るための損害保険
保険の種類 | 補償項目 | |
火災保険 | 主契約 | 火災、落雷、破裂・爆発、風災、ひょう災、 |
雪災、水災(※)による損害 | ||
(※)「水害」は除外も可 | ||
費用保険金 | 復旧のために捻出した費用 | |
(仮復旧工事費用保険金、 | ||
残存物取片付費用保険金など) | ||
地震保険 | 地震による揺れ、噴火、津波に起因する建物の火災・損壊 |
「水災」は補償される?
現在、損害保険各社が発売している住宅用火災保険商品は一部を除いて「風災」を基準補償としています。一方、集中豪雨や河川の氾濫・決壊、高潮などの「水災」が標準補償に含まれていない商品もあります。この場合、加入者がカスタマイズによって「水害」をチョイスしなければ補償されません。
水災の定義と補償対象
水災とは | 台風、暴風雨、豪雨、融雪などが原因で起こる災害 |
(例)洪水、高潮、土砂崩れ、落石など | |
補償の対象 | 次のいずれかに該当する水災被害 |
①床上浸水、または地盤面から45㎝を超えた床下浸水 | |
②再調達価格(※)の30%以上の損害 |
「風の台風」と「雨の台風」
2019年秋、東日本を中心に甚大な被害をもたらした台風15号と19号は、それぞれ「風の台風」と「雨の台風」でした。そのため被害の特徴が異なり、火災保険の補償で明暗を分けることになりました。
台風19号では河川の氾濫などにより東日本を中心に全国で推定9万棟以上もの家屋が浸水や全半壊、一部損壊被害を受けたと報告されています。その中には水災補償を付けていなかったため補償を受けられない被害家屋も少なくありませんでした。記録的豪雨によってこれまで水災とは無縁だった都市部でも下水道が溢れ、浸水や地下室の水没などの被害が発生したからです。
「費用保険金」とは?
ひとたび大型台風が発生すると、屋根の破損など建物への深刻な被害が同時に同一地域に集中します。そのため修理業者の手配が追いつかず、工事着工までに相当の時間を要すことも考えられます。
本工事の前にかかる費用も補償
その場合、被害の拡大を防ぐためにブルーシートで応急処置を行うなど、本工事前に別途費用がかかることもあります。火災保険ではこのような不随費用も「費用保険金」として別枠で補償されます。その他、損害の調査(または損害範囲の確定)費用、がれきの撤去・処分費用・残存物の取り片付け費用、清掃費用なども火災保険金額の一定の割合を限度に「費用保険金」として支払われます。
これらの費用を有効に活用し、一日も早い復興に役立てたいものです。
地震保険は火災保険とセット
地震による揺れ・噴火・津波に起因する建物の火災および損壊は、火災保険の対象外となります。これらの損害を補償するには火災保険に地震保険を上乗せして契約する必要があります。地震保険は建物・家財と対象ごとに契約します。補償金額は火災保険の保険金額の30~50%の範囲内で、建物は5000万円まで、家財は1000万円までと上限額が決まっています。地震保険は火災保険のように被害の程度に応じて実費が支払われるわけではありません。主要構造部への損害が認定基準を超えたときに、予め決められた金額が支払われる仕組みです。
火災保険と比較すると被災地時の給付額が小さく、保険料は高額なので付帯を見合わせる方もいますが、おすすめはしません。
地震保険の損害認定基準と保険金の額
損害の 程度 |
認定基準(建物) | 支払われる 保険銀額 |
|
主要構造部の損害額 | 焼失または流失した床面積 | ||
全損 | (建物の時価の) | (建物の延床面積の) | (地震保険の) |
50%以上 | 70%以上 | 100% | |
大半損 | 40%以上50%未満 | 50%以上70%未満 | 60% |
小半損 | 20%以上40%未満 | 20%以上50%未満 | 30% |
一部損 | 3%以上20%未満 | 床上浸水 | 5% |
全損~小半損には至らないが、 床上浸水(または地盤面より45㎝ を超える浸水)による損害 |
地震保険は、準公的制度
地震保険は、民間の火災保険に便乗した政府管掌の準公的制度で、補償の一部を政府が肩代わりします。被害規模が大きくなるほど政府の負担割合が増え、損害保険会社の負担割合が減る仕組みです。(政府負担割合は最大99.88%)。そのため、十分な保険金が支払われないといった事態にはなりにくいといえます。
隣家に被害を与えたら
台風や竜巻などの限度を超えた強風によって建物が被災した場合、建物の一部(屋根、外壁、ひさし、雨戸、雨どい、アンテナなど)や付属物(堀、門扉、樹木など)が脱落、飛散または倒壊し、近所の家屋や車両に被害を及ぼすことがあります。
ご自身の物件によってこのような事故が起きたときの対処法について、誤った認識をお持ちの方が少なくないようです。
不可抗力なら損害賠償責任は発生しない
民法709条「不法行為による損害賠償」では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償した責任を負う」とあります。裏を返せば、建物の維持管理上の責任を著しく怠っていた場合(破損した建物を長期間放置していたなど)を除き、法律上の賠償責任は発生しません(不可抗力)。
したがって、被害者からの賠償請求に応じる必要はないといえます。
これは火災保険にセットされている(または単独で契約されている)施設賠償責任特約などでも同様の取り扱いとなりますので、近隣からの賠償請求には安易に応じないことが賢明です。
なお、逆に近隣の建物から被害を受けた場合も、所有者に賠償請求できません。
今すぐ、補償内容の点検を!
毎年のように大型台風や集中豪雨の被害が報告される中、ご自身の損害保険がどのような場合に役立つのかを知っておくことは極めて重要です。
大規模災害から物件を守るために、今すぐ損害保険の補償項目を点検・再検討されることをおすすめします。
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