今回は、不動産の売買で「中古住宅」を扱う際によく聞かれるワード、
「既存建物状況調査(インスペクション)」
について、書きたいと思います。
「インスぺクション」とは、私たち人間でいうところの、「住宅の人間ドック」のようなものです。
建築士などの建物の専門家が建物の状況を調査確認し、メンテナンスや改修が必要かどうかの診断をすることです。
欧米では中古不動産の取引が活発な為に既に普及していますが、日本では2016年の住建業法の改正により注目され始めました。
2018年4月から、政府は中古売買市場促進の目的で「インスペクション」の有無を売主と買主の双方に説明義務とすることとしました。
中古住宅は、購入前にわからなかった住宅内の不具合で購入後にトラブルになるケースが考えられます。
売主側が第三者の専門機関に依頼をして事前に建物の状況について調査し示しておくことで、買主側は安心して購入することが出来るというものです。
費用の相場は、約4~8万程度です。(住宅の広さや事業者による)
1)インスペクション調査対象の部位
- 外壁、梁、柱、基礎など構造耐力上の安全性に問題が生じる可能性がある部分の劣化の確認(腐食・傾斜、躯体のひび割れ)
- 給排水管の水漏れや設備配管に日常生活上支障のある劣化があるかの確認
- 雨漏りの発生及び発生の可能性に関する調査
(なお、検査は目視によってのみ判断が出来る部分の調査となる。)
2)不動産会社の説明義務
不動産会社は不動産の売主及び買主に、インスペクションの説明義務を課せられます。
- 媒介契約の締結時に建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者に交付する。
- 買い主等に対して建物状況調査の結果の概要などを重要事項として説明する。
- 売買などの契約の成立時に建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面を交付する。
3)インスペクションのメリットと注意点
①売主のメリットとは
建物の安全性や劣化についてきちんと調査した上で売却することで、買主側の不安を払拭することが出来ます。
そして何よりリフォームやクリーニングと同様、インスペクションが行われた物件はその他の物件との差別化を図る上でも有利になり、価値を高める事が出来ます。
本来売主は、売買後に契約と適合していない欠陥や不具合が見つかった場合には「契約不適合責任」を負う義務があります。
しかし、売却前に物件の状況を正しく把握した上で売主・買主が双方納得して契約した場合には責任を負う必要がありませんので、売買後にトラブルになるリスクを避ける意味でとても効果的です。
②買主のメリットとは
インスペクションを行うのは売主や不動産会社ではなく、第三者の専門機関による客観的な検査ですので、専門的な立場から見た住宅評価を得た上で購入が出来るメリットがあります。
中古住宅の購入の場合は、新築住宅の購入とは異なり将来的な修繕も視野に入れての場合がほとんどですので、建物の現状を知り、今後の修繕の資金計画を立てる事が可能になるでしょう。
また、インスペクションの実施によって、「瑕疵保険」に加入する事が出来るようになります。
瑕疵保険(既存住宅瑕疵保険)とは、中古住宅の検査だけでなく、保証がセットになった保険制度です。
【 一般的な木造(在来軸組工法)の戸建住宅の例 】
基礎や外壁、柱、屋根などの構造耐力上主要な部分と雨水の進入を防止する部分の瑕疵に対して保険が支払われます。
出典:国土交通省住宅局 住宅瑕疵担保対策室 「住宅の新しい保険をごぞんじですか?」
注意)ただし、瑕疵保険の検査は、あくまでも保険の対象部分のチェックであるため、インスペクションとは検査項目が異なります。
③インスペクションの注意点
売主・買主双方にとって、売買する住宅の「健康状態」を知ることが出来るインスペクションはメリットが多いように思えますが、売主側にとっては費用の負担もある上に検査の結果次第では売却計画を見直さなければならないケースもあるため、必ずしも行う事がメリットと言えるかは難しい判断となります。
安心して売買取引が出来る優良物件として競合物件より価値を上げることが出来る一方で、思うようなタイミングで取引機会を得る事が出来なくなる可能性もあります。
4)まとめ
自宅などの資産を売却するにあたって、第三者の専門的かつ公平な立場で価値を判断してもらう目的を果たすのにインスペクションは有効な手段であると言えます。
売主・買主双方が納得してスムーズに取引できるよう検討した上で、実施を決めていくのが良いでしょう。
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